2016年07月01日
社会・生活
HeadLine 編集部
小笹 泰
筆者はゴルフ歴10年。両親がしっかりと育ててくれたおかげで、身長は180センチを超え、腕力にも自信がある。ところが...。いざティーグラウンドに立ち、ドライバーを振り回しても、直径4センチ強、重さ45グラム程度の小さなボールが思うように飛んでくれない。
全米ゴルフ協会(PGA)によると、男子のトッププロ選手のドライバー(第1打)飛距離は300ヤード(約274メートル)を超える。これに対し、筆者は10回に1回のナイスショットでも、230ヤードがせいぜいである。しかし専門家によると、物理的には素人でも300ヤードを飛ばすことは決して不可能ではないという。
今回、「ドライバーで飛ばすにはどうしたらよいか、取材して来い」という編集長の命を受け、横浜市青葉区にある日本体育大学健志台キャンパスを訪問。体育学部でゴルフ部長も務める木原祐二准教授に取材に応じていただいた。
ドライバーがボールに当たっている時間は、1万分の5秒といわれる。瞬き(10分の1秒)よりずっと短い時間内に、ボールの行方が決まってしまうのである。そのわずかの間に、①ボールの初速②打ち出し角度③スピン量(回転数)―というボールを飛ばすための三つの要素が決定される。
飛びの三つの要素
(出所)特許庁資料などを基に筆者作成
初速とボールの飛ぶ距離がある程度比例することは、野球の経験からも分かる。だからゴルフでも、より遠くに飛ばすため、ついつい力任せにクラブを振り回してしまう。しかし木原准教授によると、「実は初速よりも、打ち出し角度のほうが大事。ドライバーがボールに当たる瞬間、下からすくい上げてもダメだし、上から叩きすぎてもダメなんです」と言う。
それでは適正な角度を実現するには、どうしたらよいのか。9.5度のロフト(角度)の付いたドライバーを使う場合、「ボールが当たる瞬間、9.5度を実現する!」と意識して振るのが良いらしい。ロフト通りの打ち出し角度(この例では9.5度)で打つことができれば、ボールを最も遠くに飛ばすことができる「毎分2500回転」という、スピン量が実現する可能性も高まるからだ。
また、ボールをできるだけ真っ直ぐ飛ばすための秘訣を聞くと、木原准教授は「ボールを左足かかとの線上に置くことが最も大切です」と教えてくれた。左足かかとの線上で打つことにより、ドライバーとボールの間の距離を最も長くとれるからだ。
ところが、「大半のアマチュアは右足寄りにボールを置く傾向があり、野球のバッティングでいうと『詰まる』状況になります。そして手をひっくり返してしまい、ボールを正確に捉えることができないんです」―。もしドライバーのロフト通りにボールを打つことができれば、「還暦を過ぎたゴルファーが300ヤードを飛ばしても、全く不思議はありません」という。
ボールを遠くに飛ばすには、ドライバーというクラブだけでなく、実は小さなボールも非常に大切な役割を担う。
ゴルフボールの大きさは、「直径42.67ミリ以上、重量45.93グラム以下」と定められている。人間の拳(こぶし)より小さい物体に対し、過去20年間だけでも世界中から6000件近い特許が出願されているという。例えば、ボールの表面には300~400ものディンプル(窪み)があり、その数や形状、配列などによって飛び方が変わってくる。ゴルフボールは実は、最先端技術がふんだんに盛り込まれた「特許の塊」なのだ。
ところが、筆者をはじめアマチュアゴルファーの多くは、概してボールには無頓着。その最先端技術を生かしきれていない。木原准教授は「ボールは値段が高ければ飛ぶというものではありません。ゴルファーとボールの相性、すなわちフィッティングを考えて選んでください」とアドバイスする。
飛ばすためのフィッティングはどうすればよいのか。ゴルフショップに行くと、実に様々なボールが並んでいて途方に暮れてしまう。価格も1個100円程度から、高級品は1000円を超える。しかし大きく分けると、「ディスタンス系」と「スピン系」の二種類になる。ディスタンス系はコア(芯)が柔らかく、それを包む表面のカバーは堅い。反発力が高いため、飛距離を伸ばすのが特徴。逆にスピン系はコアが堅く、カバーは柔らかい。
そうか、飛ばすならディスタンス系か!と決められるほど、ゴルフは簡単なスポーツではない。遠くに飛ばすだけでなく、狙った場所にボールを落とす・転がすことが求められるからだ。このため、第2打以降のアイアンや、グリーン上で使うパターとのフィッティング(相性)も考える必要がある。木原准教授は「アマチュアはドライバーより、アイアンのスピン量やパターの距離感を重視しながら、ボールを選んだほうが良いでしょう」と助言している。
日本体育大学体育学部 木原祐二准教授(左) 日本体育大学スポーツ局 男子ゴルフ部 江原清浩監督(右)
(写真)筆者 PENTAX K-50 使用
小笹 泰